翌週、また私はイケメンドクターの部屋にいた。

日勤の終わりに廊下でこっそりと誘われたのだ。

「サンゴの配置換えをしたんだ。雰囲気が変わったよ。見に来ない?」

サンゴ礁の水槽の誘惑には勝てなかった。
あれから夢にも出てくるほど私の心をわしづかみされていたのだから。

また、夕食を共にしてから部屋に行った。
部屋に入り驚いた。
水槽の位置が変わり水槽の前に2人掛けのソファーがあったのだ。

「藤野さんがなんの気も遣わずゆっくりできるよ」
そう言って笑っている。

それって?
まさか、私のためにソファーを買ったとか……はないよねぇ。
さすがにそれはないだろう。私のためになんて考えること自体が図々しい。

私が戸惑っているとイケメンドクターは私の頭に軽く触れてきた。
「何も考えなくていいから、ゆっくり眺めていればいいよ」そう言って微笑んだ。

自分に向けられたイケメンドクターの笑顔に胸が大きく弾けた。
一度弾けた鼓動は収まることなく、聴診器がなくても聞こえるんじゃないかと思うほどばくばくと強く弾んでいた。

こんなはずじゃなかったと思う自分と、こうなることはわかっていたと思う自分と、こうなることを期待していた自分がいる。

ぎこちなく微笑みを返してソファーに座る。
ちょうど良く身体に馴染む座り心地に驚き、うわっと声が漏れた。

「すごいですね」

「そうでしょ。気持ち良くて昨日もここで居眠りしちゃったよ。藤野さんも気を付けて」

「はい。寝ないようにします。よだれとかつけると大変だし」
へへっと笑うとイケメンドクターは微妙な顔をした。

さすがによだれ発言はまずかった。

「いえっ、よだれはつけませんからっ」

「そうじゃなくて、よだれは付けてもいいよ。ここで居眠りすると狭くて疲れるって言いたかったんだ。2人掛けじゃなくて3人掛けならゆっくり眠れるんだけど、ごめんね」

そう言って私の隣に座った。
距離感にドキッとする。腕が触れ合う程近い。

「2人掛けなら自然にキミの近くに座れるからね」
これは作戦なんだとニヤッと笑った。

おさまりかけていた私の鼓動がまた激しく弾み始める。

思わず肘掛けの方に身体を寄せるように彼から身を引くと、あろうことか少し引きつっている私の顔をのぞき込んでくる。

「藤野のそばにいる権利が欲しいんだ」
私を抱き寄せて耳元で「もう俺にしとけよ」と囁いた。

彼の低く心地よい声に胸がキュンとする。
「いい加減に俺におちてよ」

私の耳たぶに軽くキスをした。
「部屋に呼びたいのもキスしたいのも藤野さんだけだ」

もう彼を押し退ける気はなかった。
私も彼の背中に腕を回して彼の唇を受け入れた。