誰も知らない彼女

ボールをパスしながら心の中で強く祈る。


できるだけ意識を若葉に向けないようにパスを続けることにしよう。


そう決意した数十秒後、今度は秋帆がなにかに気づいた。


「あれ? あそこにいるのって朝丘?」


「……っ!」


意地悪そうにニヤニヤとした笑みを浮かべはじめる秋帆に、若葉が一瞬だけ体を震わせた。


若葉も秋帆の視線が自分に向けられていることに気づいたのだろう。


だけどそんな若葉など完全にスルーして、由良が秋帆の視線をたどっていった。


視線の先にいる人物が若葉であることに気づくのに、そんなに時間はかからなかった。


「あ〜、本当だ。あんなところに朝丘がいるなんて気づかなかった〜」


由良が笑顔を若葉に向けるが、その笑顔が普段の由良の笑顔よりも怖い。


顔は笑っているのに目が笑っていない。


「ねぇ秋帆、ちょーっとだけ朝丘をこらしめておこっか〜?」


「うん。そうでもしないと、朝丘は真面目に反省しないだろうし」


ふたりの会話はよく聞き取れなかったけど、ふたりの表情からして、よからぬことが起きるだろう。


どうしよう。