誰も知らない彼女

ここにいる誰もがそう言うと思ったからだろう。


私もそう思っていたからね。


これで、ペアでパス練習ができる。


私と由良、秋帆とネネ、えるといっちゃんという組み合わせはちょうどいい組み合わせだと思う。


なんて思いながら由良とパスの練習を何度か繰り返していると、視界に再び若葉の姿が現れた。


若葉の姿が見えた瞬間、ボールを投げようとした手がなぜかピタリと止まってしまう。


若葉は今、試合で使う得点板を暗い表情でゆっくりと準備している。


よほど私たちに見られたくないのか、それとも憂鬱なことを考えているせいなのか。


私にはよくわからないけど、若葉が暗い顔をしていることはたしかだ。


ボールを一向に投げようとしない私を怪訝に思ったのか、由良が戸惑いを隠せないような表情を浮かべた。


「ま、抹里、どうしたの? またなんかあったの?」


「えっ、あー……。なんか最近ボーッとしちゃってさ。寝不足みたい」


若葉のほうを見つめていたことをなんとかごまかした。


必死に笑顔を見せてそう言うと、由良は眉間にシワを寄せながらも「そうなの? 寝不足しちゃダメだよ?」とささやいた。


ほっ。よかった、バレなくて。


若葉は由良の背中越しにいたから由良には見えないはず。


授業が終わるまで由良たちが若葉に悪質ないたずらや嫌がらせをしませんように。