私が動けなくなっている間に、若葉を囲んだクラスメイトが一斉に彼女の体を蹴りはじめた。


あまりに残酷な姿に目を背けてしまう。


目を背くことはできても、足で体を蹴る音が響いて消えない。


嫌でも耳に入ってくるのだ。


蹴られたときの若葉の表情なんて、見るのが怖くてわからない。


「ゔっ……い、たい……やめて……」


だけど苦しそうな声をあげて助けを求めているのはわかる。


私は誰かに蹴られたことは一度もないけど、もし誰かに蹴られたらきっと若葉のように助けを求めることだろう。


そう思ったとき、遠くからブチッというなにかが切れる音が聞こえ、教室内が静かになった。


しかし、それは一瞬の出来事で、またすぐに足で体を蹴る音が聞こえた。


「……っ、い、い……たい……」


「ギャハハ! こいつ、髪の毛が数本抜けただけで泣いてやんの! ウケる〜!」


ゲシッ、ゲシッ!


ゲラゲラ笑うクラスメイトのひとりに合わせて、私と若葉以外の全員が笑いはじめた。


どうすればいいの?


若葉を助けてあげたいけど、若葉を助けたら由良と秋帆になんて言われるだろう。


そう思ったら、いてもたってもいられなくなって、クラス全員が気づかないうちに教室を出ていった。


自分は最低な人間だ。


心の中がその言葉に支配されていたせいか、気がつけばカバンを持って走って家に帰っていた……。