誰も知らない彼女

そう尋ねた瞬間、その女性が一瞬だけ目を見開いて「えっ……」と声を漏らした。


あれ?


「あの……いないんですか?」


「えぇ。たしか数日前に病室から飛び降りたという情報を患者さんから聞いて……。たぶんここにはいないと思います」


嘘。


抹里ちゃんが病室から飛び降りた?


崖から飛び降りて自殺を図って失敗したはずなのに、また飛び降りたの?


なぜ抹里ちゃんはそんなことをしたんだろう。


疑問に思いながらも、教えてくれた受付の女性にお礼を言って病院を出る。


病院にはもういない、か。


じゃあ、抹里ちゃんは今いったいどこでなにをしているんだろう。


自分のグループのメンバーが学校に来なくなった今、私の支えになってくれた人がまたひとり減ったような気がする。


抹里ちゃんへの信頼を失くしたわけではない。


秋帆が生きていたときは秋帆と一緒にいたけど、心の中では抹里ちゃんと同じ立場だと思っていた。


華やかな人気者に見えて、じつはなにか秘密を隠し持っている。


私は華やかなタイプではないけど、一緒にいた秋帆や由良たちに秘密を隠していた。


その秘密を抹里ちゃんにも隠していたから、抹里ちゃんは私に怒ったのだろうか。


ねぇ、抹里ちゃん。


生きてるなら、早く私のもとに帰ってきて。


以前のままじゃなくてもいいから、戻ってきて。


「抹里ちゃん……待ってるよ」


曇り空に向かってそうつぶやいたあと、私はまた来た道を戻っていったのだった。