誰も知らない彼女

心の底から思っていたことを、誰かにうちあけていればよかったのかな。


今さら後悔したって、もう遅い。


こうなったのはすべて運命だったんだ。


連続殺人事件が起きたことも、磐波さんが悠くんに殺されたことも、悠くんを殺したことも。


みんな、みんな……。


目に浮かんだ涙が頬をつたって床に落ちたタイミングで、男が髪から手を離して笑った。


「まぁ、こうなったのはあんたの運命だろうな。恨むなら俺じゃなくて自分自身にしてくれよな。俺は苦情も不満も受けつけないから」


そうだろうね。


あなたは他人からのクレームや悪口を思いっきり振り払う人にしか見えない。


恨むべき人はこの人じゃなくて私自身。


まさにそのとおり。


これからどうすればいいのかなんて考えても、この人は知っているだろうな。


口をつぐんでなにも言わない私に、男は余裕そうな笑みを浮かべてドアを開けた。


「あんたはもとの榎本抹里じゃない。これから先は別の人間として生きるべきだろうと思うよ。永遠にここにいろよな」


三日月のように口角をさらに上げたあと、男は私にチラッと目を向けた。


そして私の返事を聞かずに姿を消していった。


あぁ、私は以前の私ではなくなった。


その事実を脳が受け入れたと同時に鏡を拳で割って絶叫した。