誰も知らない彼女

そんな……。


この人の言う『大事なやつ』というのはおそらく悠くんのことだろう。


悠くんを刺し殺したことで、ここに強制的に収監されるなんて。


ここは見る限り監獄に似た精神病院のようだ。


天井に近い場所にある窓も鉄格子になっているし、ベッドと洗面所と鏡以外はなにもない。


それらは私にとって恐怖を与えるのに十分な要素を備えていた。


こんな場所に来るって知っていれば、私の気持ちを優先することなく最初から悠くんを生かしておけばよかった。


なんてバカだろう、私。


じわっと目から熱いなにかがあふれたのを感じたと同時に、髪をわしづかみしている男がふっと笑って口角を上げた。


「本当にバカだな、あんた。周りからは優等生だと思われてたみたいだけど、これですべて水の泡だな」


心のつぶやきはどうやらこの人に見透かされているようだ。


なら、どんなにこの人への悪口や不満を心の中で言っても、全部バレてしまうということか。


水の泡、か。


そうだね、たしかにそのとおり。


私が悠くんを殺したことで、今まで積み上げてきたものがすべて崩れ落ちてなくなった。


どうすれば、私はここに無理やり入れられなくて済んだのかな。


精神が狂っていても、ネネの言うことをおとなしく聞いておけばよかったのかな。