誰も知らない彼女

ここに来ることを事前に知っておけば、私が頭を壁で殴って死のうと考えることはなかった。


どこかもわからない場所に連れられて生きているよりも、連続殺人事件の犯人である幹恵が死ぬ前に殺されたほうがよかった。


心でつぶやきながら何回も壁に頭をぶつけていると、突然体をうしろに向かされた。


体の向きを変えたのは、まぎれもなく肩を掴んできたこの男。


男の正面に体が向いたと思ったら、もう片方の手で私の髪をわしづかみしてきた。


グイッ!


ひと束ぶんの髪を引っ張られて、何本かの髪の毛が抜かれる感触に襲われる。


痛みが頭の中に走り、無理やり視線をあげられる私の姿を確認した男が、私を見おろすように目を向けた。


「絶対に死なせない。あんたは苦しみながら生きることでおかした罪をつぐなうんだよ」


つまり、私はこの男がいる限り自分で死ぬことができないということか。


その言葉を聞いて、舌を思いっきり噛んで死んでやろうと思った。


私が死ねばすべてが終わるはずなのに、この男は私を殺さないようにしている。


心の中で舌打ちをする。


「あんた、飛び降り自殺する前に人を刺し殺しただろ。そいつはどうやら、あんたにとって大事なやつだったらしいな。その代償として一生ここで苦しんでもらう。死よりも苦しいこの場所でな」