誰も知らない彼女

肩で息を整えて細めた目で見つめる私をチラッと一瞥したあと、男は言葉を続けた。


「悪いけど、あんたを殺すことはダメだって言われてるんだ。まぁ、もし殺してもいいっていう許可がおりても俺はあんたを殺さない」


どうして……。


なんで私を殺すことを禁止されているの?


殺したければ殺して、自由に生きていればいいじゃない。


そう思うが、それよりどうしても気になることがあるのでそれを質問することにした。


「どうして私はここにいるのかわからないの。病室から飛び降りてアスファルトに体を叩きつけられたのに、どうして私が死なずにここにいるの?」


飛び降りて意識を手放すまでの記憶はある。


だけどそこから先の記憶がまったくない。


思い出そうとしても思い出すことができない。


無意識に足を動かして、壁に体を預けてそこでペタッと腰をおろした。


男は口を閉じて私に冷たい視線を送るだけ。


教えてくれないのか。


あるいは彼も私がここにいる理由を知らずに私に近づいたのか。


なにも教えてくれない以上は自殺するしかない。


体を預けた壁に頭を思いっきり叩きつけ、ここで失血死してやろうか。


男に背を向けて額をピッタリと壁にくっつけたのを確認し、一度距離をおいて壁に頭を叩きつけた。


鈍器で殴られた感覚がする。


あと何発か殴られたら死んでしまいそうだ。