誰も知らない彼女

不気味に笑う男を睨むように見つめていると、その男が鉄格子のドアを開けて私のほうにやってきた。


「……ふっ、やっとで目が覚めたか」


ずっと聞いていたくなる澄んだ声。


そんな美しく透きとおるような声が耳に響いても、私はその男を見つめるのをやめなかった。


口を開けることなく、ただ氷を思わせる冷たい視線を彼に向けるだけ。


だが、その行動が逆効果だったのだろう、ちっとも反応しない私にその男がさらに近づいて胸ぐらをグイッと掴んできた。


「……っ!」


首を絞められる感覚におちいる。


このまま死んでしまうのではないかと思うほどに強い力で掴まれている。


でも、それだけで死ねるなら幸せだ。


これ以上苦しまなくて済むんだから。


さぁ、その力のまま首を絞めて私を殺して。


目をつぶりながら願っていることがバレたのか、首にかかった力があっさりと消えた。


途端に口の中に空気が一気に入り込む。


殺してくれないのか……。


下唇を噛みしめる私に、男が私の頭上に言葉の雨を降らす。


「あぁ、やりすぎた。無視されるのが嫌いだから、つい掴む力を強くさせてしまった。あんたをこんな簡単に殺すわけにはいかないな」


胸ぐらを掴んでいた手を横に振りながらも表情をいっさい変えないその男。


この男はいったい……。