誰も知らない彼女

決意を固めたと同時に、再びお母さんの声が聞こえてきた。


その声は私に向けたものではなく、担任の先生と甲斐先生に向けたものだった。


「先生たち、今日は本当にお忙しいなか抹里の病室に来てくださってありがとうございます。あとは私が見ていますので、先生たちは学校にお戻りになってください」


どうやら言葉で先生ふたりを学校へ帰すようだ。


それは私にとって救いの言葉だった。


誰もいない場所で死ぬことができなくても、人が少ない場所で死ねるなら死にたい。


目を細めて、窓に差し込む太陽の光を睨みつけている間に、ガラッという音とふたつの靴音が遠ざかっていく音がした。


先生ふたりが病室からいなくなったのを見計らい、そっと視線を正面に向ける。


今度は真っ白な壁を見つめはじめる私に、お母さんが精いっぱいの笑顔を見せる。


「抹里、なにかほしいものとかある? もしジュースとか飲みたかったら、院内にある自販機で買ってくるけど……」


そうだ。


なにかほしいと伝えて、お母さんがいない間に飛び降りたらいいんだ。


ひとりだけの病室から飛び降りるのはあまり苦にならない。


「……ペットボトルのお茶が飲みたい」


「えぇ、わかったわ。今からお茶を買ってくるわ」


明るい口調で私にそう言ったあと、お母さんは頭に音符がつきそうな笑顔で財布を持って病室から出ていった。