誰も知らない彼女

心の中でなるほど、と納得した直後、ふたりがお母さんと同じように涙をこぼした。


「榎本、なにか悩みごとがあったら相談してほしいと言っただろう? どうして誰にも言わずに海に飛び込んだんだ。でもまぁ、榎本が目を覚ましただけで嬉しいがな」


「気づいてあげられなくてごめんね、榎本さん。先生たちがもうちょっと榎本さんに優しくしていればこんなことにならなかったのに……」


ふたりとも私に対して強い感情を抱いているのはなんとなくわかった。


由良と秋帆が派手なケンカを起こしてから由良を避けていた私を力強くはげましてくれた担任の先生。


話したのはわずか数十分だったけど、私に優しく接してくれた甲斐先生。


ひと安心したような表情を浮かべるふたりを見てもなお、私の心が大きく揺らぐことはなかった。


ただ私が死んだら悲しむんだ、と思うだけ。


死のうとしたのは、少なくともお母さんや学校の先生たちのせいではない。


理由がないわけではないが、海に身を投げて死のうとした理由を誰にも教えたくない。


それって、自分勝手なことなのかな。


自殺願望がある人にしかわからないこともこの世にたくさんあるはずだ。


だったら最初から誰にもしゃべらないほうがいいのかもしれない。


もしくは誰かが自殺願望を持つ理由を私に聞く前にここから飛び降りて死のうか。