誰も知らない彼女

教えてくれてありがとうという意味を込めて頭を小さく下げると、男の人はニコッと微笑んで視線を幹恵のほうに戻した。


それと同時にさっきまでの間に起きた出来事を頭で想像した。


ナイフを持って私に襲いかかってきた幹恵が警察官ふたりに引きはがされる。


殺されそうになった私は磐波さんに引き寄せられ、助けられたことが嬉しくて泣いた。


私が泣いて目を閉じている間に幹恵が落としたナイフを再び手に取って警察官ふたりを殺そうと襲ったが、ナイフで刺す前に積もった雪で足を滑らせてしまい、階段から落ちてしまった。


そのときに運悪く持ってたナイフが自分の心臓に深く突き刺さり、頭を強く打ったということか。


結局誰も悪くないってことじゃん。


こんな雪の中で幹恵が私や警察官ふたりを殺そうとするから自分が死んでしまったんだろう。


と、そこにさっきやってきたふたりの警察官が血を流して倒れている幹恵のもとに駆け寄った。


そしてしばらくふたりでコソコソとなにか話したあと、野次馬たちに向かって叫んだ。


「みなさん、ご迷惑をおかけして、まことに申しわけありませんでした! 危険ですので、ここにいるみなさんはすぐに家に帰ってください!」


なぜ家に帰らなければならないのかわからない。


だけど、私は幹恵に殺されずに済んだ。


そして、連続殺人事件の犯人もわかったんだ。


自分が犠牲にならなかっただけでもう十分だ。


胸を撫でおろして、私は真っすぐ家に向かった。