誰も知らない彼女

「だって、君はあの子に命を狙われたけど、死ぬ前にあの子が死んだんだろ? しかもあの子は、連続殺人事件の犯人。殺人犯に殺される前に殺人犯が死んだからよかったじゃないか」


「死んだ……?」


意味がわからない。


そもそも幹恵は死んだのだろうか。


階段から落ちて頭を打っただけなら、病院に入院しても一命は取りとめると思うけど。


ていうか、野次馬はこんなにたくさんいるのに、なんで誰も救急車を呼ぼうとしないの?


あたりを見まわす私に、男の人が真剣な表情でこくんとうなずいた。


さっきとは違う表情に背筋が寒くなる。


「うん。あの子はね、歩道橋に積もった雪で滑って転落したんだ。そのときに持ってたナイフが運悪く心臓にグサッと刺さってしまったんだよ」


ナイフが心臓に突き刺さった……?


待って。


たしか幹恵はナイフを歩道橋に落としたはず。


なのに、なんで幹恵がナイフに刺されたの?


「ナイフが刺さったんですか?」


「……うん。一度落としたナイフを手に取って警察の人に襲いかかったみたいだけど、そのときに階段から転落したんだ」


そういうことか。


これで、私が目をつぶってから騒ぎ声が聞こえるまでの出来事がようやく浮かんできた。


「……そうだったんですか」