誰も知らない彼女

野次馬の中をくぐりながら、野次馬たちの会話に耳をかたむけた。


「嘘……これ、マジか?」


「この人、あそこで連続殺人事件の犯人だって言われてた人だよね?」


「うわぁ、エグッ……。今、すげぇグロテスクなものを見た気がする……」


「階段から落ちて頭を強く打ったうえに、ナイフが心臓に深く刺さってるわ。これは即死だな」


会話で騒ぎの的が誰であるか、もうわかった。


だけど、この目でしっかり見ないと気が済まなくなり、人波をかきわけて一番見える場所まで来る。


「……っ!」


騒ぎの的を見て、口を手でふさいでしまった。


真っ白な雪の中で流れている真っ赤な鮮血。


その血は幹恵の頭と心臓あたりから流れており、顔が血だらけだ。


そう、野次馬たちが見ていたのは幹恵だった。


心臓に突き刺さったナイフを誰も引き抜こうとはしない。


やっぱり、ここにいる人たちは私たちの会話をちゃんと聞いていたようだ。


「気持ち悪い……」


ボソッとそうつぶやくと、左隣に立っているスーツ姿の男性が私に声をかけてきた。


「君、あの女の子と知り合い?」


「あの女の子……?」


「ほら、そこで倒れてる子だよ。なにか関係があるのかい?」


どうしよう。


ここで『関係ある』と答えれば、私が幹恵を突き落としたという勘違いを生んでしまいそうだ。