誰も知らない彼女

お願いだから、おとなしく捕まって。


自分の心が落ち着いたタイミングでいいから。


私の足音が幹恵たちの声に混ざって聞こえる。


昔から雑音が気になっていたほうだが、4人の声が会話する声と自分の足音がミックスすると、今は落ち着いていられる。


なぜかを考えている間に幹恵のもとに来た。


幹恵はまだ私がここにいることに気づいてない。


いったいどうすれば幹恵が気づくのか、考える余裕なんてなかった。


4人のしゃべっている声に混ざって、大声を張りあげた。


「桑野さん!」


バッと幹恵の顔が私に向けられる。


学校では朝丘若葉と名乗って過ごしていた幹恵だが、今はもうその面影がひとつも見あたらなかった。


血走った目、額に浮かぶ青筋、こめかみに流れていく大粒の汗。


幹恵が相当力を入れて3人に抵抗したことがうかがえる。


視界に私の姿を認めた幹恵が突然3人から離れて、鬼のような形相でつかつかと歩み寄ってきた。


殺意がまだ消えてないことに驚きながらも幹恵の顔を正面から見据えた。


と、そのとき。


私との距離を縮めていった幹恵が、上着の内ポケットからキラッと光るものを取りだした。


「そ、それは……!」


警察官のひとりが目を見開いて、幹恵の手にあるそれをじっと見つめた。