彼がここに来なくても、誰かがここに来てくれるだけでいいの。


私はまだ、死にたくないんだ。


お願い、どうか……。


祈り続けていると、近くで聞こえた足音が突然ピタッと止まった。


足音が消えた代わりにゼェゼェと苦しそうに呼吸を繰り返す声が聞こえた。


ゆっくり目を開けてそちらのほうを見てみると、そこにいたのはまさかの人物だった。


「う、嘘でしょ……⁉︎」


予想とはまったく違う出来事に、さすがの幹恵も驚かずにはいられなかったみたい。


私もびっくりしている。


だって、そこにいるのはさっき向こうへと歩いていった磐波さんだったから。


「い、磐波さん……!」


「やっぱり……あんただったんだな。野々村と畠を殺して、連続殺人事件を起こしたのは」


険しい目つきで幹恵を睨む磐波さん。


彼の目には、さっき見た幹恵の殺意の宿った瞳以上の怖さが隠れている。


目だけで人を殺せそうなその瞳に、びくんと体が震える。


「そ、そうよ。連続殺人事件の犯人は私よ。えっ、なに? まさか私に仕返しをする気?」


今度は幹恵が動揺する番だった。


昔から殺人を繰り返してきた幹恵でもこんなに動揺するのは、磐波さんの表情がそれだけ怖いという証拠。


もちろん、私だって怖いと思っている。


だけど助けにきてくれたという気持ちがあるからか、あまり怖いとは感じない。