誰も知らない彼女

そう思ったのもつかの間。


しんしんと街に降る雪を目で追っていると、腕がなにかに掴まれる感触に襲われた。


な、なに?


腕を掴むなにかの伸びてきたほうに目をやった瞬間、声をあげてしまいそうになった。


「なんで逃げるの? 榎本さん」


そうだ。


私、さっきまで若葉に追いかけられていたんだ。


そんなことを忘れて雪景色を見てるなんて、本当にバカだね。


自分に呆れを抱くと同時に、若葉に再び恐怖を抱いた。


逃げたくても逃げられない。


途中でどうでもいいことを考えてしまう私が、若葉から逃げられるわけがない。


しかも、若葉の私の腕を掴む手の力が信じられないくらい強い。


「い、痛い……っ!」


ビリビリと体に電気が走ったみたい。


目の前で火花が散る感覚がする。


は、離して……。


心の中ではそう言うことができても、本人の前ではっきりと言うことはできない。


思っていることをうまく言えない私をスルーして、若葉が口を開いた。


「教えてあげようか、なんであいつらを殺したか」


“あいつら”。


若葉のその言葉は、若葉に殺された被害者全員を指しているだろう。


若葉の存在は怖いけど、それは知りたい。


殺害の動機を聞いて、それから警察に知らせて捕まえてもらおう。