誰も知らない彼女

連続殺人事件の犯人が若葉だって思わなかったから、軽い気持ちで『せめて話をしてから殺してほしい』なんて思ったんだ。


やっぱり私、死にたくないんじゃん。


めんどくさい性格をしていて他人を平気で裏切る自分の存在を、心のどこかでは抹消させたくなかったのかもしれない。


もし私がめんどくさい性格の持ち主じゃなくて、他の誰かがめんどくさい性格の持ち主だったら、その誰かを忌み嫌っていただろう。


早くこの世界から出ていってほしいとさえ思う。


なのに、自分の存在を消したくないのはどうしてだろう。


ふと立ち止まって考えてみる。


うしろを見て若葉の姿が見えないことを確認して、息を整えはじめた。


無意識に視線を下に向けると、そこにはたくさんの車が行き来していた。


どうやら私は知らず知らずのうちに歩道橋までやってきたようだ。


景色もさっきより美しく見える。


眺めとしては最高にいい。


真っ暗だけど少し神秘的な雰囲気をまとう夜空に、そこから地上へと降ってくる純白の雪。


対照的な色をまとうふたつの夜の装飾は、私の心をおだやかにさせる。


「きれい……」


今すぐにでも絵に残しておきたいくらいの美しい景色。


だけど描くものはなにも持っていないので、目に焼きつけておくことしかできない。


仕方ない、今度こういう美しい景色を見ることができる日が来るまで待ってるしかないな。