誰も知らない彼女

もしこの信念を曲げるときが来れば、私は間違いなく死んでいるだろう。


死にたくないとは今は思っていないが、自分が今すぐ死ねばいいのにとも思わない。


宝物を大切にするように抱いている信念が曲がっていないのは、きっと自分自身が生死の境界線に立っているからだと思う。


死にそうな状態になっても、なにかに救われて助けられる。


やっぱり私という人間は複雑な存在なんだな。


でも私以上に、私以外のクラスメイトが一番複雑な存在だ。


座り直して笑うのをやめ、マグカップに注いだお茶をひとくち飲んだとき、もとの体勢に戻したネネが口を開いた。


「抹里ちゃん、由良とえるが気になるんだね。こんなこと言ってもいいかな……」


最後のひとことが小さくてよく聞こえなかった。


それに、今のネネの声がさっきより低くて暗いものになっているような気がする。


気のせいだと思いたい。


しかし、ネネの声が変わったことが気のせいではないと気づいたのは、ネネの次の言葉を聞いてからだった。


「そのことだけど……えるは彼氏の死の真相を知って、高い建物から飛び降りて病院で寝たきりの状態になってるんだって」


えるが、病院で寝たきり?


彼氏が死んだ理由を知ったあとに飛び降り自殺を図って死に損ねた。


いったいどうしてそんなことをしたんだろう。