その視線の主は、私の家がどこにあるかわかる人ではないとわからない。


つまり、視線の主は私の家に行ったり来たりしたことがある人物だということだ。


この学校の中で該当する人物は由良ひとりだけ。


狂ってしまったという点も合わせて、連続殺人事件の犯人が由良ではないかと推測したのだ。


「は、八戸さんが犯人……?」


唇を小刻みに震わせて、信じられないとでも言うような表情をする甲斐先生。


まぁ、そうだよね。


犯人が由良だって言われたら、そんな顔しちゃうよね。


私が甲斐先生の立場でもそうしてしまうだろう。


だけど、最近の由良を見ていると恐怖感が増していくんだ。


「はい。でもそれは私の推測に過ぎないんですけど……」


そう言ってから、再び視線をそっと床の木目に落とした。


視界に床が広がったと同時に目を見開く。


目に映る床の木目が黒い人型に見えたのだ。


大きく口を開け、助けを求めようと手を伸ばしている人の形。


「ひっ……‼︎」


悲鳴をあげて、甲斐先生の体を手でどけて走りだした。


私の目が急におかしくなったの?


頭を抱えながら教室へと急ぐ。


授業なんて、とても受けていられない。


誰かに声で呼び止められても、それを無視してひとりになるしかない。


それが、今の私が考える唯一の方法なのだから。


私は、親友を裏切ってしまったんだ……。


目から熱いものがあふれたのを感じながら、逃げるように走っていった。