誰も知らない彼女

どうしよう。


磐波さんに唇を触れられたときのことが頭の中でよみがえってくる。


あまりに突然の出来事で頭がパンクしそうな私とは対照的に、先生は冷静な表情で私の額に手を当てたまま。


爆発しそうになる前になんとか言葉をしぼりだそうと口を開けたが、その前に先生が額から手を離してボソッとつぶやいた。


「熱いな……」


熱い? なにが?


意味がわからなくて眉間にシワを寄せる。


「な、なにがですか……?」


思考回路がショートする寸前になんとか言葉を口にすることができて、心の中では安堵している。


聞こえるかわからない程度の私の声に反応することなく、甲斐先生は私の腕を軽く引っ張ってベッドの近くまで連れてきた。


「せ、先生?」


「榎本さん、しばらくここで寝てたほうがいいんじゃない? よく見たら顔色悪いし」


先生もそう思っていたんだ。


保健室に来る前にネネに指摘されたことはどうやら嘘ではなかったようだ。


自分はそんなに顔色が悪くないって思っているけど、他の人から見たら顔色が悪いふうに見えたのかもしれない。


でも、私は本当に熱はないから。


「いや、でも……」


「無理は禁物だよ。もし顔色が悪いまま授業に出たら倒れるかもしれないし。榎本さんに聞きたいことがあったけど……」


“聞きたいこと”?


甲斐先生が私に聞きたいことがある?