「えっ、マジで⁉︎ 朝丘にそんなこと言われたの⁉︎」


「うん……」


「はぁ……まったく、抹里を使ってなにをたくらんでるだろうね、朝丘は」


腕組みをして、しかめっ面になる由良。


若葉がたくらんでいるなんて考えられないけど、もしかしたらなにか考えていることがあるのかもしれない。


私が想像するものより残酷なものではないと思うんだよね。


「それにしても朝丘って彼氏いないんだね。まぁ、あんな性格ブスに彼氏ができなくて当然だよね〜」


しかめっ面から、今度は本気で嬉しそうな顔を私に見せる由良に少し驚く。


由良はそう思っているのかもしれないけど、私はそうは思わない。


私と由良の違いは好きな人がいるという部分だけではないのかな。


でも、今はそんなこと考えなくていいか。


そう思ったとき、4限開始のチャイムが校内に鳴り響いた。


「てかやばっ、次って古典じゃん! 抹里、古典のノート見せて!」


「う、うん、とりあえず急ごっ!」


1段飛ばしで階段を駆け上り、大急ぎで教室までの廊下を全力で走る。


教室まであと数メートルというところで、また奇妙な視線を感じた。


今はその視線をたしかめるひまがないから振り向きはしないけど、背筋が凍ってしまうほどに視線が冷たいことだけはわかった。


この視線の正体なんて、今はまだ知らなくていい。


今は、まだ……。