誰も知らない彼女

胸が苦しくなっていくのを感じる。


いったいどうしたら……。


「なんで俺より先に抹里ちゃんを取るんだよ……。俺のほうが抹里ちゃんのこと、こんなにも好きなのに……!」


頭の中でぐるぐると思考をめぐらせたそのとき、磐波さんの切なくてどこか苦しげな声が聞こえた。


そんなに大きいわけでもないその声が、私の耳に大きく響く。


彼の口調が気になったわけじゃない。


今聞こえてきた磐波さんの言葉が頭の中で繰り返される。


『俺のほうが抹里ちゃんのこと、こんなにも好きなのに……!』


好き?


磐波さんが? 私を?


それはひとりの人間として好きだってこと? それとも異性として好きだってこと?


自分の耳に響いてきた言葉の意味がわからなくて、磐波さんに目を向けて小首をかしげる。


「そ、それって、どういうことですか?」


私が目をパチパチとしばたたかせて、おそるおそる疑問を投げかけた、その直後。


不意に磐波さんの顔が真剣なものになって私の視線をとらえたかと思うと、その表情のまま私に顔を近づけて唇を重ねてきた。


逃げることを許さない彼の瞳がドアップで映り、驚愕に目を見開く。


突然こんなことをしてくるのは、最後に彼に会った日以来だ。


口の中をはう、やわらかな感触。