誰も知らない彼女

さて、ここからなんて話せばいいのか。


どんな話題をぶつけたらいいのかわからなくて、私も磐波さんもすぐに口を閉ざしてしまう。


口を閉じていても、私は磐波さんの姿を視界に映して見つめている。


しかし、磐波さんは口を閉ざしたと同時に私から目をそらして握り拳を作った。


なにかを言おうとしている目、小刻みに震えている肩に唇。


どうやら磐波さんは私に会いたくなかったわけではなく、悠くんと一緒にいるところを見てどんなふうに話しかけたらいいかわからないようだ。


なんだ、私を避けているわけじゃないんだ。


彼が気まずそうな顔をしていた理由にほっと胸を撫でおろす。


口の端をつりあげて笑いそうになったそのとき。


さっきまで目をそらしていた磐波さんが急にこちらに歩み寄り、私を壁まで追い込んだあと、開けたばかりのカーテンを閉めた。


再び周りが真っ白になり、なんて説明したらいいかわからないくらいの空気が私たちを包んでいる。


しかも、私の目の前には磐波さんの姿。


男の人に追い込まれることは一度もなくて、免疫がついていないためか、全身が心臓になった感覚に覚える。


私を囲う磐波さんの服装が、壁や天井などの白さで余計に黒く見えた。


さらわれるわけではないのに、心の中が慌ててどう逃げようかと考えてしまう。