誰も知らない彼女

あぁ、そうか。


恋をしていると気づいた日からずっと寝不足だったから、クマができたんだ。


それに加えて頭痛とめまい。


私がそれらの症状に悩まされているのは、もしかしたら自分のせいなのかもしれない。


これはまさに自業自得というものか。


いくらバッチリ髪をセットして服装を整えても、顔を見たら自分がどんな状態なのかがすぐにわかってしまう。


バカだな、私。


たかが恋でこんな顔になるなんて。


たかが友情でこんな顔になるなんて。


前はこんな顔をしてなかったのに、なんでこうなったんだろう。


睨むように鏡を見つめていると、近くで先生の声がした。


「そうか。てっきり俺の言葉で傷ついたのかと思ったんだが……まぁいい。八戸たちのことはなんとかしてやるから、お前は保健室に行きなさい」


先生も気づいていたんだ。


私たちの関係に亀裂が入って、仲間割れしたことを。


クラス内の異変に気づいた人は誰もいないかと思っていたけど、先生は黙っていながらも気づいていたんだ。


心の中で先生に感謝する。


ありがとう、先生。


たとえクラスメイト全員に気づいたことを言わなくても、先生は私の味方だ。


じわりと涙が浮かんできて、鏡に映る自分も同じように目に涙が浮かんできた。


それでも鏡の中の自分の行動に気づかないフリをする。


「はい、わかりました」


そっと鏡から視線をそらし、階段の手すりに手をかける。


「榎本、ゆっくり休めよ。なにかあったら、すぐに俺に相談してくれ」


肩に手が置かれる感覚がしたあと、足音が遠ざかっていく。


それがふわっと消えたとき、目から滝のような涙があふれた。


なんで私は死にたいと思ったんだろう。


そんな言葉をかけられると最初からわかっていたら、死にたくないと思ったのに。


今まで死にたいと思っていた自分がまるで嘘のようだ。


手すりを握る手の力が強くなっていくのを感じる。


痛い視線を感じながら、私は軽い足取りで保健室に向かった。