誰も知らない彼女

露骨にその行動をとっていたせいか、先生が不思議なものでも見るかのような目でじっとこちらを見ていた。


自分が心の中で思っていることを見透かされそうだと感じ、とっさに自分の髪で顔全体を隠した。


「ど、どうした、榎本。もしかして俺の言葉で傷ついたのか?」


傷ついたかと言われたらそうかもしれないが、今自分がなにを考えているのかはちょっと違う。


違うことを考えていた先生になぜかほっと胸を撫でおろす。


気づかれない程度に息を吐きだし、壁から体を離してゆっくり立ちあがる。


「いえ、違います。ちょっとめまいを起こしただけです……」


私なりに精いっぱいの声をしぼりだしたものの、先生にはあまり聞こえなかったのか、顔をそっと覗かれる。


「大丈夫か? もし俺の言葉で傷ついたのならごめんな」


やばい。


これ以上顔を近づけてきたら心の中の気持ちが読まれそうだ。


私たちの距離が残り10センチほどになったところで、さっと向きを変えた。


今度は先生にもちゃんと聞こえるように声を張りあげる。


「違います。ちょっとめまいを起こしただけです」


先生に向かって言葉を吐きだしたそのとき、ふと踊り場に設置されている鏡が視界に映り、鏡の中の自分と目が合った。


遠目でもはっきりとわかるほどにできたクマ。メイクで必死に隠していても見えている。