誰も知らない彼女

それほど大きくはない声のはずだったのに、私の耳に大きく響いた。


そうか、その手があったか。


体調不良だからと言って早退できたら、今日一日由良と目を合わせずに済むかも。


頭の中でアイデアが浮かんだ瞬間、それを真っ先に口にしていた。


「先生。じつは私、朝からあまり体調がすぐれないみたいで。頭が痛くてボーッとするんですよね」


ものすごく体調が悪いと言ったら嘘になるけど、今の自分の様子がおかしいんじゃないかと思っているのは本当のことだ。


お願い先生、この空気と私の気持ちを察した言葉を言って。


心の中で必死に祈っていたことが届いたのかどうかはわからないが、先生のため息が大きく響く。


「そうか。榎本がそう言うなら、早めに保健室に行ってこい。本当は榎本に話したいことがあったんだが……」


話したいこと?


気になる言葉を耳にしたとき、私は先生に視線を向けていた。


「えっ、話したいこと……ですか?」


「あぁ……」


なぜか先生の表情は浮かない。


私に関するなにかを知らせようとしているのだろうか。


眉間にシワを寄せる私に、先生は私の視線を真正面から受け止める。


その顔がやけに怖く見えてゾッとするが、そんな自分に気づかないフリをする。


背中に変な汗が流れていくのを感じる私をそっちのけに、先生はゆっくりと口を開けて話しはじめた。