誰も知らない彼女

わけもなくそっと下のほうにある小さい窓に目を向ける。


雪が降っているわけではないが、太陽が地面を明るく照らしているわけでもない微妙な天気。


目に映った光景だけで気持ちが晴れるはずがないのに、そちらのほうに視線が無意識に向いてしまう。


座ったまましばらく窓の奥の光景を目にしていると、突然うしろから声がした。


「榎本、どうしたんだ?」


びくっと肩を震わせ、窓から声のしたところに視点を変える。


一瞬由良なのではないかとびくびくしていたが、聞いた限りでは女子ではない。


推測しながら自分の視界に入った人物が誰なのかを理解した途端、息を大きく吐きだした。


「先生、びっくりさせないでくださいよ……」


クラス担任の先生だった。


私が驚いた目で見つめていたせいか、先生が若干引いた顔で私に問いかける。


「なんでこんなところにいるんだ? もうすぐ朝のホームルームの時間だぞ?」


「そ、そうですけど……」


なんて言えばいいんだろう。


ここで言葉の選択を間違えたら、『教室に戻りなさい』と言われるかもしれない。


今は教室に戻りたくない。


ばつが悪そうにそっと目をそらした直後、先生の驚く声が聞こえた。


「ん? 榎本、顔色悪いぞ? もしかして保健室に行こうと思っていたのか?」