誰も知らない彼女

目を疑うような行動に思わず「えっ⁉︎」と声をあげるネネに、青ざめた表情を浮かべるえる。


だけど私の目にはふたりの姿は映っていなくて、うつろな目で見つめる由良の姿しか見えない。


他のクラスメイトもザワザワと騒ぎはじめている。


ここにいる全員が注目するなか、由良が地の底から響くような声を発した。


「抹里……私を助けろ……!」


そして私の腕をガシッと強く掴んだ。


数日前の体育の授業でもこんなことをされ、長く伸びた由良の爪で腕が血で真っ赤になったのが今でも鮮明に覚えている。


由良に掴まれている腕は右腕。


もし右腕も左腕のように血だらけになったら、誰に手当てしてもらったらいいんだろう。


前は磐波さんが偶然にも来ていたから手当てしてもらったけど、手当てしてもらった日を最後に磐波さんとは会えなくなった。


腕の傷は癒してくれたけど、心に負った傷は消えてくれない。


それは由良がこんなふうに変わってしまったのかというショックだけではなくて、磐波さんに会えなくなったと悲しんでいる自分の気持ちもあるのかもしれない。


そう考えて、はっと気づく。


そうだ。私が連続殺人事件の被害者になればいいんだ。


私が事件を起こした殺人犯に殺されれば、小さなことで悩まずに済むだろう。


クラス内で嫌がらせが広がってしまったことや、合コンで会った野々村さんと畠さんが行方不明になって死んだことや、由良と秋帆が派手なケンカをして由良が嫌がらせのターゲットになったこと。