でも、痛くなっている理由なんて知りたくない。


知ってしまったら私まで心に深いダメージを負う可能性があるし。


だから私はこう言うことしかできなかった。


「……悠くんが恋することなんてあるんだ」


すると、悠くんが少しムッとして頬を膨らませた。


悠くんのふくれっ面は、昔と変わらない。


笑いそうになるのをなんとかこらえて、彼の視線を正面から受け止める。


「なんだよ、その言い方。まるで俺がずっと恋してなかったみたいな感じじゃねぇかよ。こう見えて十数年も前から恋してんだぞ」


そうなの? 知らなかった。


私と一緒に遊んでいたころから誰かに恋をしていたんだ。


恋の相手を誰なのかは気になるけど、今はこんなことに時間を費やしている場合じゃないでしょ。


ブンブンと首を左右に振って視線をそらした。


「私、さっきこっちを見てた人を探すね。あの人に誤解をさせたかもしれないことがあるから。じ、じゃあ、また今度ね!」


「あっ……お、おい!」


顔色を戻して私を止めようとする悠くんの声をスルーして、駆けだした。


うしろを振り向くことなく走り続けるが、遠くで悠くんの声が聞こえた気がした。


「こんなにもお前のこと想ってるのに、なんでこの気持ちに気づかねぇんだよ……。そんなにあの男がいいのかよ……」


なんて言っているのかなんて、知らなくてもいい。


ただ磐波さんの誤解を解くことに必死になればいいんだ。


どこに行くのかという意識もなく、走り続けながらそう思った。


しかし私が行った限りの場所を探しても、磐波さんは見つからなかった。


私から姿を消した磐波さんのことを思い出せば思い出すほど、目から涙が出てくる。


今、私を癒してくれるものはなにもない。


心の叫びが聞こえた瞬間、私はどこかもわからない場所でうずくまって泣いていたのだ……。