誰も知らない彼女

心の中でそうつぶやいたと同時に、自分の両頬をパンパンと叩いた。


私のこの行動を不思議に思ったのか、悠くんがきょとんとした顔で小首をかしげた。


「……抹里、どうした? もしかして久しぶりに顔を合わせたから緊張してるのか?」


上着のポケットに片手を突っ込んで、もう片方の手を私の顔の前で上下に振る。


たしかに緊張しているせいもあると思う。


だけど一番の理由はそうじゃない。


このこととは関係のないことだから。


ヒリヒリと少しだけ痛みを帯びた頬をおさえながら慌てて笑顔を作る。


「ま、まぁね! ちゃんと顔を合わせるのがすごくひさしぶりだし!」


明るく言ったつもりなのに、なぜか悠くんの表情が逆に曇った。


私の顔の前で振っていた手をおろし、眉をハの字にさせている。


「……そうか?」


「そ、そうだよ! 今までちゃんと顔合わせられなかったもん!」


痛みがちょっとだけひいてきたところで手を頬から離し、アイスを食べるのを再開。


アイスを持ったまま頬を叩いたせいで、上に飾りつけられたミントの葉がアスファルトに落ちていた。


慌てて拾い、小石をすべて息で取ってから葉を口の中に入れる。


ミントの葉は好きなはずなのに、口に入れてもなんの味もしない。


いくら噛んでもさわやかな味がいつまでもやってこない。


おかしい。


葉がアスファルトに落ちただけでこんなに味が落ちるわけがない。