今、完全に忘れそうだった。


秋帆が言ってくれなかったら、なにを話すかわからなくなっていた。


心の中で秋帆にお礼を言ったと同時に、こちらを見る秋帆とネネとえるの目を正面から見つめ返し、意味もなく両手を膝の上でいじりはじめた。


「うん……。あ、あのね……」


ダメだ。話そうとしても話せない。


昨日の保健室での出来事が頭から離れなくて、顔がボッと熱くなる。


今さらだけど、唇が熱を帯びていく。


それを感じた瞬間、私が今抱いているのはいったいなんなんだろうと思ってしまう。


答えなんて誰かに教えてくれなくても、きっと未来が教えてくれると思っていたけど、いてもたってもいられなくなって秋帆たちに聞いてみることにしたんだ。


モジモジしてなにも言えない私に、秋帆たちがわくわくした顔で催促してくる。


「なによ、恥ずかしがらずに言っちゃいなよー」


「そうだよ。そのこと絶対に秘密にするからさ」


「うんうん。えの……抹里ちゃんがそんな顔してるなんてはじめてだもんね」


クラス全員が由良を嫌がらせのターゲットにしてから、えるは私を“抹里ちゃん”と呼ぶようになった。


前まで私たちのグループには由良がいたせいか、下の名前で呼ぶことをためらっていたらしい。


でも、由良がこのグループからはじき飛ばされたことで、えるはひと安心したのだろう。