「えっ、嘘。今の声、抹里だったの?」


「今まで強く言い返さなかった抹里ちゃんが……どうして?」


「八戸さんと高島さんの言葉よりもなんだか強く感じたんだけど……」


「たしかに。誰に対しても優しい抹里ちゃんだから、強いって思えるっていうか……」


仲間全員が目を見開いて驚くのも無理はない。


私が仲間たちと同じ立場だったら、ここにいる全員と同じ反応をするかもしれないから。


目を点にして見つめる周りを尻目に、私は若葉に小声でこう言った。


「朝丘さん。今度もこんなに暴れたら停学……ううん、ヘタしたら退学になっちゃうかもよ。だから今度からはもう叫んだりしないでね」


私のこの言葉は幸か不幸か、周りにいる生徒全員には聞こえなかったようだ。


それもそのはず、私は若葉にだけ聞こえるように言葉をぶつけたから。


私の言葉を聞いた若葉は、オロオロとあたりを見まわしている。


若葉の額には大粒の汗がいくつも流れているのが見えた。


たぶん、自分が今どんな状況にあるかを理解したのか、それとも別のなにかを知ったのかのどちらかだと思う。


なにに気づいたのかはわからないけど、これで若葉の暴走騒動はいったんおさまるだろう。


誰もがそう思ったのかもしれないが、これがきっかけである事件が起こるとは思いもしなかったのだ。


私自身、気づかなかっただけで……。