「迅、遅かったわね」
リビングのドアから顔を覗かせると母さんの姿があった。杏は静かだからきっと勉強でもしているんだろう。
「母さん、帰っていたの?」
いつもは仕事ばかりで、帰ってくるのも遅くて会えないことが多い。だから杏はいつもひとりで俺の帰りを待っている。
「違うわ、忘れ物を取りに帰ってきただけ。またすぐに戻るわ」
「そっか……」
なんだ。きっと仕事関係のことだとは思っていたけど、俺達のために休みをとって帰ってきたわけではないんだ。
その言葉通りじんわりと汗を浮かばせながらも何かを探している。
「杏、入るよ」
小学生になってからできた杏のひとり部屋。ノックをしてから入るとやっぱり机へ向かっていた。


