どの記憶を探ってもハルナさんは現れ出てこなかった。
だって本当に知らないんだ。
近所にお兄さんが住んでいたこともなく、学校の先輩と交流が深かったわけでもない私は、年上の男の人などと接点なんてもたなかった。
────やっぱり、何かを企んでいる悪い人なのだろうか。
人を殺したことがあるって……まさか、そんなこと。
『只今ー、日光線、鬼怒川線などで特急「リバティ」の導入を中心としたダイヤ改正が実施されました。日光・鬼怒川方面において快適性・速達性・利便性の高い特急列車を増発することに伴い──』
揺れる車内で無機質なアナウンスが聞こえてきた。耳にするのは今日で何回目になるんだろう。
多分、それをきっちり聞いている乗客は1割いるかどうか。
ああ、いいや、ハルナさんのことを考えるのはやめよう。
邪念を振り払って窓の外を見る。車掌さんの抑揚のない声を耳にしながら、新栃木駅でも見たあの特急列車を思い出した。
あれがリバティなのか……。
ちょっと意識しないあいだにどんどん交通の便が良くなっていっている。
今度は走ってるところを見てみたいな。なんて考えながらアーモンドチョコを口に放り込んだ。
