おじさんの問いかけにキョトンとした。
きっかけ、か…そういえば何だったかな。一人で行くことにだって何の抵抗もないくらいに日光が好きな理由。
ハルナさんは頬杖をつきながら横目だけ私に向けて来ていた。
中学生?
小学生?
いや…もっと、前だ。
「きっかけは…、」
そう、記憶を手繰り寄せる。限界の限界、切り開くようにして見つけだした記憶の端っこには確かに幼稚園生の頃のものが転がっていた。
「小さい頃に、よく日光に連れていってもらったこと……だと思います」
最近はあまり考えもしなかった。
どうして?だとか、何で?だとか、物事の理由なんて考えなかったのだ。
顔を上げるとおじさんは目をやんわりと細めて私を見下ろしてきている。しっとりと眉が下げられて、白髪混じりの髪が空調の風に揺られている。
「こんな風に休みの日は電車に乗って、お菓子なんて広げて遠足みたいに」
「うん」
「家族と一緒だったから、余計に日光の景色が綺麗に見えたんだと思います。キラキラして…眩しかった」
「ご家族と?僕にも娘がいてね、日光へはよく連れていってあげていたものだよ。……君みたいにそう思ってくれているといい」
おじさんが静かに瞳を下げ、私のことを包み込むようにして見つめてくる。
「きっと、…思ってます」
