「特に東照宮の入り口の神橋(しんきょう)がたまらなくいい。あそこから歩いていってこそが東照宮観光ってものだよ」
「あー分かります分かります。私もそう思います。楽して近場から参拝するよりも質がウンと上になりますよね」
「そうそう。あの山間にかけられた朱色の橋と、岩場からの水しぶき、木々の緑は、まるで神の世界への入り口のようだと思う」
「まさに名前の通りですね!」
それにしても、まさかこんなところで日光通の方に巡り会えるだなんて思わなかった。
……私って実はこんなに日光が好きだったんだなあ。
意識せずともポンポンと言葉が飛び出してくるから自分でも不思議だったのだけれど、考えてみれば、私の周りにこんなマニアックな会話ができる相手がいなかったのだ。
本当に久しぶりだった。
だからつい嬉しくなった。
いい観光ルートも教えてくれるかもしれない、と私はここに来て一気にテンションをあげる。
「ちょっとー、俺の時とは大違いなんですけどー」
「あなたは黙っててください!」
と、前方から不満げな声が聞こえてきて眉を顰めた。おっと、忘れていた。
ハルナさんはつまらなそうに頬杖をついている。眼鏡拭きでレンズの手入れをしているものの、やはり手持ち無沙汰なのだろう。
…さっさと何処かで降車してくれればいいのに。私はまた気を取り直して観光マップを開いた。
