ナミダ列車










「…日光に、行くんですか?」



すると、何処からかまた声がかけられた気がして顔をあげる。



ハルナさんではなかった。私の隣に腰を下ろしている、優しそうな男性。白髪がところどころ目立つけれども、物腰がすごく柔らかい雰囲気のいい人。

40代〜50代に見えるその人は、私が開いている観光マップをシゲシゲと眺めている。






「あ、はい。パワーをもらおうと思って」

「なんだか神々しいスポットですものね。いいなあ。僕も久々に行きたい。よく日光には行かれるのですか?」

「うーん…よく、行くと、思います。確か前回訪れたのが……、」




よく行く、か。

そう聞かれるとどうだろう。今まではあまり考えもしなかったけれども、普通の人より数多く日光に訪れている方だと思う。

最後に訪れたのは確か…。






「そうそう先月です。ゴールデンウィークに」

「先月ですか…。ゴールデンウィーク、いいですね。最近ではダイヤ改正で浅草から日光へもさらに行きやすくなりましたし」

「そうなんですか…?ますます日光を知ってもらえるようになったみたいで私も嬉しいです」





この人は一体何処に行くつもりでこの電車に乗り込んだのだろう。

なんて、ポロシャツにチノパンを履いているおじさんのことを見上げていると、



「やっぱりいいねえ、東照宮は」

腕を組んでいた彼は誇らしげに語り始める。