『新栃木〜新栃木〜』

不可解な言動だった。変な男が言ってきたことを上手く処理できていないままに電車は次の駅である"新栃木駅"で停車した。

チラホラと降車してゆく人に逆らい、何人かが乗車してくる。




この駅には日光線と宇都宮線が乗り入れているのだ。

宇都宮線は新栃木駅を起点としているけれども、宇都宮線の列車の多くは日光線経由で隣の栃木駅まで運行される。




向こう側のホームには特急列車が停車していた。

栃木県の日光と東京を結ぶ特急といえばお馴染みのスペーシアばかりだと思ったのに、こんな近代的なボディーをした電車も走ってるらしい。



『ダイヤ改正に伴い、当駅始発・終着列車の「リバティけごん」の運行が〜…』

無機質な車内アナウンスを右から左へ受け流し、あまりの居心地の悪さに目の前にいる男からフイ、と視線を逸らす。



ハルナさんは丸眼鏡をかけ直すと、再び満更でもなさそうに私のイチゴオレを飲んでいた。





「いい加減ストロー噛むのやめたらー?」

「ストロー?」

「ほら。こーんなグシャグシャに噛んじゃって。ストロー噛む人って寂しがり屋なんだって知ってるー?」

「っ!私の勝手です!ていうかまた断りもなく飲んで!」

「細かいことは気にしない気にしない」

「気にします!出会った初っ端からこんなにフレンドリーな人はじめてですし!」

「フレンドリー?俺が?まさか、自他ともに認める超コミュ障だから」






またそんなことを信じろっていうのか…。

さきほどから話がチグハグすぎてついて行けそうにない。



「すいません」と、私の隣に腰を下ろしてきたおじさんに会釈だけをする。プシュー…、閉まる扉。ゆっくりと動き出す車内。

こんな変な人に付き合っていられない。読書でもしながら終点までやりすごすことを決めた私は、荷物を漁ることにした。