ガタンゴトン…。電車は刻々と終点に近づいてゆく。
「二人してさっきから同じことを言い合ってるな」
ヨータは可笑しそうに笑う。私もつられて笑ってしまった。
誰よりも走ることが好きだったヨータは、道半ばにしてその足を奪われ、掲げていた夢は儚く散ってしまった。
挫折。絶望。一度は下を向いてしまったけれど彼は再び前を見ることを決意してくれた。
他の道を探そうとしたのかもしれないし、諦めないことを決めたのかもしれない。
けれどそれもつかの間だった。彼はまもなく、あと3年しか生きられないと告げられる。
あまりに残酷な運命だ。
私の知らないところでヨータはたくさんの壁にぶつかってきた。
今度こそ折れてしまっても仕方がない。
それでも私には、あの日、日光の地を踏みしめていたヨータには、硬い意思があるように見えた。
屈してなどいなかった。
────あの時、ヨータはなにを言おうとしていたんだろう。
「いろは、さ、また絵…描いてよ」
「……え?」
見上げれば優しい表情をしたヨータがいた。
正気に戻るといろいろヤバイことに気づく。公共交通機関の中でのこの距離は、モラル的に問題がありそう。
……だけど、今だけは、許してほしい。
「好きなんだ。いろはの絵。それに、また描いてもらえるだなんて思ってなかったからさ、あれ、すごく嬉しかった。俺がほしいくらいだったし」
ヨータはミユちゃんにあげた絵のことを言ってる。
あの時もほぼ無意識に指が動いてしまっていたんだよな…。
藤江先生はどう思ったのかな。
あれ以来、絵に関する興味をまるきり示さなくなってしまった私が、再び鉛筆をはしらせている場面はどう映ったんだろう。
あの涙は、きっとそういう涙だった。
「また描いてほしい。俺はずっと、どこにいたって応援してる。俺は一番のファンだから」
「……最高の味方」
「ハハ、そうだろ?それと、さ。俺も見つけたんだ」
「…なにを見つけたの?」
「……あたらしい夢」
まるきり大人びた顔つきをした彼をヨータだと認識するのは、照れ臭くてむず痒い。
それはヨータも一緒なのかもしれない。
全ての記憶を取り戻したからか、いつのまにか私は本来の年齢に相応しい口調になっていた。
当初は見せなかった愛しげな瞳がそこにはあった。嬉しいのかなんなのか分からない。切ない。苦しい。苦しい。いくらでも泣けてくるから。
「手術、成功するか分からないけど、もし成功して日常的な生活が送れるようになったら、陸上のコーチをしたいと思ってる」
