"ハルナさん"だと思っていたその顔は、こうして見ると何処もかしこもヨータのものでしかなかった。
男らしいわけでも、女らしくわけでもない中性的なそれは固く強張った表情をしていない。寧ろやんわりと緩められていてた。
「……え、どういう」
ヨータのあたたかな手を取る。
中禅寺湖の畔りで聞かされた、"余命3年"の言葉ばかりが脳内を駆け巡っていたからか、予想もしていなかった内容にワンテンポ反応が遅れてしまった。
「ドナーが見つかったんだ」
「……そんなっ」
「心臓移植のドナー。待って、待って、待って…先月、やっと見つかった。3年の間に見つかるのは絶望的だと言われていたはずなのに、見つかったんだ」
ああ、この感情に名前をつけるならなにになるのだろう。ドッと涙が溢れ出した。
後悔や罪悪感、自分に対する憤り、嬉しさ、安堵をごちゃ混ぜにした涙が、壊れたように流れる。
声をかけたいのにまるで言葉にならない。ヨータはやっぱり一人で頑張っていた。感情が高ぶって、項垂れるように泣いた。
「手術の日までの"タイムリミット"」
「……っ…」
「絶対に成功するとは言えない大きな手術だからさ、ちょっと勇気が欲しかったんだ。それまでにどうしてもいろはに会いたかった」
ヨータはまた、私の存在を確かめるように頬に手を添えてくる。
笑っているけれど、泣いているようにも思えたのは、声が小刻みに震えていたからだ。
心臓移植ができる状態になっているとしても、彼にとってそれがタイムリミットであることに変わらなかった。
自分の身体に移植された心臓が合わないことだってあり得る。
ヨータが絶対に生きていられる保証などない。いや、絶対、なんてもの自体、この世には存在しないもかもしれない。
「手術が成功するかどうかなんて分からないけど、俺はどっちにしろ立ち止まってはいられない」
「……っ、」
「もう二度と走ることができないと医者に告げられても、子どもの頃からの夢が叶わなくなっても、いきなりあと3年しか生きられないと余命宣告されても、ここまで頑張ってこれたのはいろはがいてくれたからなんだ」
