はじめてした口づけはレモン味なんて甘酸っぱいものではなく、しょっぱい涙の味しかしなかった。
「ずっと待ってた」
「……っ…」
「俺、諦めの悪い男なんだ」
ガタンゴトン…。
3年分の想いをのせた電車が、終点に向けて私たちを運んでいる。
彼が生きているあいだに私の記憶が戻る確証はない。途方もない時間がかかるかもしれない。
命の灯火が消えるのが先か。行き先が分からない、目的地のない電車に、ヨータは乗っていた。
たった一人、罪の意識を感じながら。
「諦めの、悪いって…、こんな女最悪じゃん…。なんでヨータが罪悪感を感じて生きなきゃいけなかったのっ…」
「いろはは悪くない」
「だって、3年しかなかったのに。貴重な3年だったのに…、その時間全部、あなただけに背負わせてしまったっ…私はっ……」
「ほら、顔上げて。…俺を見て?」
ひどく優しい声はすぐ頭の上から降ってくる。
だって、だって、ヨータはもうほとんど生きられない。私が奪ったの。
たくさん話したかった。
たくさん触れたかった。
ヨータのトクベツになって、もっともっとあなたを感じていたかった。
世界からヨータがいなくなる。
神様は待ってくれない。
このあたたかな体温が冷たくなることを想像したくなんてない。あなたが動かなくなるのなんて考えたくない。
やりたいこと、たくさんあったはずなのに──私は……、
涙でグショグショになった顔を引き上げるなり、また影が重なった。柔らかい口づけは先ほどのものよりも長かった。
「ずっとこうしたかった」
ヨータは、掠れた声で囁くと再び私の言葉を封じた。
