────2014年6月7日。
その日、午後4時を回った頃、私とヨータは中禅寺湖畔のベンチに座っていた。
「うわ、このアングルいい。…あ、いやちょっとF値いじってみようかな」
「…さっきからよく撮るねえ」
だって、海抜行動1000メートル超えの巨大湖と、緑鮮やかな男体山のコラボレーションは言葉では言い表しきれない神秘さを感じさせる。
胸が震えるとはこういうこと。芸術魂が熱く燃えるというかなんというか。
「湖面に映る男体山をもっとうまく映したいんだけど…」
「センス皆無な俺からしたら、まったく分からない世界だな…尊敬するよ」
「んー?そんな大層なものでもないよー。あ、今度は光入れすぎた」
「いーや、いろははすごいと思うよ、俺は」
「そーかなー」
「うん。いろはの絵は、ドストレートに心に訴えてくる。見るものを感動させて、一瞬で魅了する力を持ってる。なんていうのかな、みなぎるパワーっていうか、勇気や希望っていうかそういうのがギュウギュウに詰まってた」
草木の匂いを乗せた湖風が私とヨータの間を通り抜けてゆく。
お父さんから借りてきた一眼レフから瞳を離した私は、深妙な空気を作りはじめるヨータに視線を移す。
