そして来たる6月はじめ。土曜日だ。
私とヨータは、"快速"東武日光行きに乗り込んだ。
快速電車は特急料金が発生しない電車なんだけれども、普通電車と比べても停車駅が少ないからめちゃくちゃ速く目的地に到着する。
なんといってもこの電車一本で浅草まで行けちゃうのだ。
手間でしかない乗り換えをしなくていいだなんて、栃木も案外捨てたもんじゃない。
私とヨータは、幸運にも空いていたボックス先に身を滑り込ませると、さっそくお菓子と飲み物を広げていた。
「イチゴオレいただき」
「あっ!ヨータ勝手に飲むな!」
すると、ニュッと出てくる綺麗な顔。
「……甘」
だから……近いんだって。
こうも至近距離で見上げられるのは抜群の破壊力があると思う。
「ていうかまだストロー噛んでるんだ」
「…ぐっ」
「ねえ、ストロー噛む人って寂しがり屋なんだって。いろは寂しいの?俺がいくらでもかまってあげようか?」
それに────、期待するような台詞を吐いてくる。
頬をツンツンとつついてくるヨータに胸が締め付けられた。
"いくらでも"
その部分に妙に泣けてきそう。
「う、うるさい。この天パ星人」
「天パって、酷くない?確かにこれは天パだけど」
なんだか最近は情緒不安定だ。
嬉しかったり、愛おしかったり、切なかったり、泣きそうになったり、感情が忙しい。
────恋って、複雑。
「小林さん、ここのお店なんてどうです?」
「まぁ!素敵な料亭じゃないですか。湯葉料理が美味しそう」
あー、あつ…。
火照りそうになった頬を仰いでいると、何処からか楽しそうな声が聞こえてくる。
「運動をした後の贅沢。はりきっちゃいますねえ。しかも、今日泊まる旅館の温泉も評判がいいんですって」
日光へのハイキング客で賑わっている東武日光線の下り電車は、通学通勤電車というよりは旅行列車という言葉がしっくりくるな、と前々から思っていた。
学校に向かう時も、観光客があまりにも楽しそうだから、授業に行かずにそのまま終点まで乗っていたいと考えたことが何度あったか。
小さい頃からこの風景が好きだった。
父親と母親に挟まれながらも乗客をシゲシゲと観察したものだ。
このおばさんは東京方面からずっと乗ってるのかな、とか。
このおじさんも南の方からやってきてるのかな、とか。
────たくさんの旅路を想像することが好きだった。
それに、電車に揺られながら車窓をのんびり眺めていると、ふと普段じゃ絶対に目がいかないところに意識が向く時がある。
名所でもなく、写真スポットでもない、ただのなんの変哲もない景色に魅せられる。
鉄道旅のいいところって、そういう偶然の発見ができるところだと、
「俺もそう思うよ」
ヨータに熱弁したものだ。
