高校3年にもなると、友達は彼氏彼女を作るようになった。
ていうか、ううん。1年生や2年生の時だってそうだったのかもしれないけれど、当時の私はそんなところに目を向ける余裕がなかったのだと思う。
だから周りの浮かれた雰囲気に意識が向いたのはこの時期。
ついこの間までは部活命だったはずの友達も、このくらいの時期になって彼氏ができたらしいし、それはもうみんな頭に花が咲いていた。
……と、同時にいいな…とも思った。
「もー告っちゃえば?」
肝心の友達は、私の気持ちなど気にもせず直球ストレートに事を運びたがる。
机の上でコロコロと転がっているソフトボールに向けてため息を吐いた。
……そりゃあそう思うよ。ヨータと彼氏彼女の関係になれたのなら願ったり叶ったりだ。
「あ、サトル」
──例えばこんな風に。
友達の彼氏が教室に入ってきたのを確認すると、スポーツ一直線だった友達は一転して可愛い女の子になった。
ベリーショートの髪を揺らして嬉しそうに近寄る姿をぼんやりと眺める。羨ましいし、心底憧れる。
「…なにしてんの?」
友達の彼氏と並んで現れたヨータに声をかけられてドキリとした。
相変わらず覗き込む距離が近い。
特に最近、やけに彼の雰囲気が変わったせいで余計に調子が狂ってしまうんだ。こんなの、私ばっかり意識する。
「べ、別にっ」
「ふうん?」
「……って、ねえ、ちょっと髪、」
「ん?」
「触りすぎ…だと思うんですけど」
……でも、
もう十数年も一緒にいるんだよ?多分、あくまでも幼馴染。私を見る目も子どもを相手にするような、そんな目。
「あー、これ?」
髪、伸ばしてるの?と付け足したヨータはさも当然とばかりに髪に指を絡ませてくる。
「いろはが最近、女の子っぽくなったって…クラスの男子が言うから」
答えになってないそれ。
……ヨータはどうなの。この先、私のことを女の子として見てくれる時なんて来るんだろうかって、不安にならなくもなかった。
…………
その日の帰り道、最寄りを降りた私は、物思いに耽りながら自転車で漕いでいた。
カンカンカンカン…踏切の警告音が鳴ったかと思うと、ものすごい勢いで特急列車が通過した。
髪という髪を全部巻き上げて駆け抜けてゆくそれは、カラフルなボディをした特急スペーシア。
いつも思うけれど目を引くデザインだな。
きっと日光や鬼怒川に向かうのだろう列車は、私の最寄りである新大平下駅には停車しない。
まだ乗ったことはないけれど、いつかは私もあれに乗車してみたい……。
……そっか、
日光、か。
そこは私が絵を描き始めるきっかけになった場所。
幼いヨータが両親のために日光の絵を描けばいいって勧めてこなければ、私は今こうやって筆を握っていなかったかもしれない。
あの"こうこうび"で内閣総理大臣賞なんて素晴らしい賞をいただくこともなかったかもしれない。
…やっぱり、このままの関係で終わりたくないな。私を、一人の女の子として意識して。
ヨータにもっと私のことを知ってほしい。
願わくばヨータの特別な女の子になりたい。
そう思ったら急に感慨深くなって、気がつけば携帯を取り出して彼の連絡先をタップしていた。
