「いろはは無意識に"それ"を避けたんだ」
「…な、んで」
「違う日に行ったと置き換えることでガードを張って、保身した」
「……なに言ってんのか全然分からな」
……ハラリ。
その時、5月の次のページから一枚の紙が手元に落ちてくる。
ハルナさんは表情を崩すことなく、その場面を冷静に眺めていた。
「……嘘」
なんで。
どうなってんの。
────2014年6月7日。
きちんと今日の日付が記載されているそれを見て目を見開いた。
手帳の6月のページには、まだ訪れていないはずの東照宮の参拝券が挟んであったんだ。
「……え?」
……違う。
「違わない。いろはは"今日"、この日に日光に訪れた」
「…違う」
「そして大事なものをあの場所に────置いてきたんだ」
これはなにかの見間違い。
夢でも見ているんだ。これから行くはずの場所に、もう既に行っていただなんてあるはずない。
私は今電車に乗ってるんだよ?
今もこうやって………、"東武日光行き"に…。
『東武鉄道をご利用いただき、誠にありがとうございます。日光・鬼怒川方面において快適性・速達性・利便性の高い特急列車を増発することに伴い、東武鉄道は────…2017年2月28日────…次回のダイヤ改正で浅草~東武日光間などの区間を走る快速および区間快速列車を廃止し──』
今まで右から左に受け流していた車内アナウンスが何度も頭の中で復唱された。
電撃が走った。哀しい、哀しい、と私の中の異物が悲鳴をあげる。それは途切れ途切れに聞こえるノイズのように、私の思考を侵しにかかった。
かろうじて成立していた虚構が崩れ落ち、私とはなんであるかが暴かれる。
いや、やめて。
やめて────。
"ごめんなさいっ………"
ドックン……。
ドックン……。
『代替として、南栗橋~東武日光と一部、新藤原間に急行および区間急行列車が新設され────2017年4月21日に、東武鉄道の東武スカイツリーライン(伊勢崎線)、日光線、鬼怒川線などで特急「リバティ」の導入を中心としたダイヤ改正が実施されました』
