「好きな人というか…それよりももっと深い意味を持った人」

「…」

「彼は走ることが大好きでした。インターハイに行くんだって、厳しい練習にもイキイキと参加している姿がとても魅力的だった…」

「…」

「すっごいんですよ。私、一回だけ大会を見に行ったことがあるんですけど、ぶっちぎりで速いんです。他の選手なんて絶対に追い付かない。競技場で表彰される彼と同じ土俵に立てたのなら、と何回も思いました」



エリさんとサトルさんは黙って私の話を聞いていた。

一方ハルナさんはいたっていつも通りに車窓を眺めているだけで聞いているかも定かではない様子。





「でも、彼、なんでだか走れなくなっちゃったんです。大好きなことができなくなった。あんなに努力を積み上げて邁進していたのに、夢を追うこともできなくなってしまっただなんて。突きつけられた現実はあまりに残酷でした」

「…」

「だから、私は絵を描いた。キャンパスいっぱいに彼の夢をのせた。絵の中の彼はいつも走ってる。永遠に飛び続けるからって…、それにありがたくも評価がついてきたって感じです」

「…」

「だから、夢が本当の意味で大成したというのは高校二年のこの時でした。心から救われたと涙ながらに何回もお礼を言ってくれて…、本当に、あの絵を描いてよかった」