———それから3か月半後。8月。




蝉の鳴き声がそこらじゅう犇めき合っている真夏日。東京・六本木にある国立新美術館は多くの人で賑わっていた。



【内閣総理大臣賞】


そのコーナーに堂々と展示されている作品を見て、かつて夢をあきらめた少年は身体を震わせて泣き崩れる。




そこには、真っ白なゴールテープ。

それを境にした輝かしい頂きの景色と、グラウンドの上を力強く踏みしめる少年の足首には今にも飛び立てそうな———翼が生えていた。

二度と走れなくなった、たった一人の少年に捧げるために描いた作品。




【タイトル:朽ちない翼】



どこまでも羽ばたける。

もう一度、コース上を駆け抜けている自分を思い出してほしかった。いつだって輝いていた。そんな姿に私は何度も勇気づけられた。

昔も、今も、そして未来も、それはきっと変わらない。彼の足に生えた希望の翼は、どこまでも、どこへだって連れて行ってくれるから。








だから、元気を出して。





隣を見ると、彼は膝をついて静かに涙を流していた。

「…ありがとう、いろは」

ありがとう、ありがとう、うわ言のように何度も口にする。私は彼を救えたんだ。彼に希望を与えられたんだ。

なによりも大事な存在を鼓舞することができたんだ。





高校2年。

それは、私の本当の夢がかなった年だった。


彼は——私の初恋の相手は、心からの言葉をくれたのだ。