ナミダ列車






彼はそれくらい、トラックのラインを駆け抜ける、あの感覚が好きで仕方がないのだ。

誰よりも私がよく分かっていた。

小さい頃から走ってばかりいた彼。

私と同じように練習馬鹿で、県大会、そしてさらにブロック大会で6位の枠の中に入って、絶対に全国インターハイに行くんだって。


熱い思いを抱いていたのも知ってる。

4月の半ばなんて陸上の春大会の大事な時期だということも理解していた。





「走れないんだって、さ」

ハハ、と笑う。

たいしたことないというような顔をしているけれど、彼がどれだけ悔しい気持ちでいるかなんて私が分からないわけなかった。




彼が泣いているように見えた。

走れないってどういうこと?

そんな疑問が浮かぶ以前に、ゴールテープがもう切れない、ライン上を駆け抜けることができない、彼が一番輝いていた場所にもう立つことができないという事実が酷く胸に突き刺さった。




放課後、グラウンドに向かうと陸上部のランニング風景に彼は混ざってはいなかった。彼は、4月の半ばを境に陸上部を辞めた。

昇降口付近で遠巻きにしているだけの姿は痛々しく、切なげに背を向けて歩く彼になにかあげられないだろうか…、そう思わずにいられなかった私は、美術展に出品する作品を急遽変更することを決めたんだ。